40 パーティー1
夜8時になろうとしている。
繁華街の奥にある会場を貸し切ったパーティは盛大だった。
50人くらい収容できるのだろうか。
中学生から20代後半くらいまでの男女が集っていた。
なかは薄暗いし、
さっきから音楽がうるさい、たばこと酒と香水の匂いが入り混じって
圧倒された。
吹き抜けになっている下のフロアでは、大きなミラーボールがチカチカ瞬き、
色とりどりに照らされた男女が踊っている。
駄目だわこの雰囲気馴染めない。
パウダールームに行ったのだけれど。ガンとばす女子達がいて怖い。
あたしはテーブル席にあるスチールの椅子に一人座りさっきから
ちびちびと持参のペリエを飲んでいる。
フリードリンクということで
さきほどからウエイターが飲み物をトレーにのせて
客の間をまわっているが受け取る気になれない。
多分あれお酒だ。
結局、芦原と一緒に来た。
6時開場だったけれど最初からいる気に慣れなくて
7時半ごろ来た。
芦原は7時半といったら渋るかとおもったが、
「さすがヒナだね。確かに最初っからいるとがっついているみたいだよね」
などと感心されてしまった。
いや、気が乗らないだけなのだけれど。
ちなみに芦原はパウダールームに行くついでにまいてきた。
芦原が嫌というのではなく
多分里沙のところに行きたがるがら。
それに用がすんだら早々に立ち去りたい。
とりあえずパーティメンバーをチェックしたら帰ろうと思う。
やだな前に襲われそうになった高校生男子たちもこの集まりにいるのかな。
ひとりにはなりたくはないのだけれど。
この環境では群れても怖い。
とにかく人目に付かないようにしよう。
「ヒナなにやってんの。暗いなあ」
振り向くと里沙と2組の三宅亜弥がくすくす笑っている。
里沙は露出の多い青いドレス姿だった。
スタイルが良いのでいやらしい感じはしない。
これはミスコン出る気満々だな。
それとももう終わったのかな。
対する亜弥は豊満な体を見せびらかすべく、ベアトップ超ミニの真っ赤なワンピース。
それ大丈夫なの。公序良俗に反してない?
「なにヒナ、路線変更とか、清楚系なのそれ?」
と亜弥。感じ悪い。
私は黒のベルベット地の膝丈のドレスに身を包んでいた。
肩や襟のあたりにレースがあしらわれ、そこだけ透け感がある。
結構気に入っている。
Amaz〇nで探していたら、遊びに来ていた修がこれがいいというので
選んだ。
「超受けるー。ゴスロリでもないし、令嬢系とか。あざとい。あはは」
「まじ、あざとすぎ」
フロアの音楽と喧騒に負けじと大笑い。
えっと、れいじょう系ってなに。あたしそんなに浮いてるの。
芦原もちょっとあたしの格好にひき気味だったけれど。
「やだな。そんな顔しないでよ。ヒナ。冗談だって。
来てくれてうれしいよ。学校であんたが記憶喪失っていうの?
そうなってから一言も話してないからさ。
ちょっとからかいたくなっただけ」
そういって亜弥は優しく微笑む。
あれ、口が悪いだけでいい子なのかな。
「そうそうあたしも楽しみにしてたんだ」
そういって里沙はあたしの前に青い色のドリンクを置く。
これブルーハワイですよね。
「まあ、これでも飲んで」
里沙はキールの入ったグラスを亜弥はカシスの入ったグラスを掲げる。
乾杯ってことだよね。
「かんぱーい」
三人で唱和した。
飲むふりをしてちょっと舐めてみる。
うっ酒だ。とろっとして甘い。アルコールに舌先
がしびれる。
「やっだヒナのんでないじゃん」
「ほんと」
などと口々にいいなが自分たちもさほどのんでいない。
亜弥がさら酒をすすめようとすると
「ちょっと待って。酔っぱらっちゃう前にこれかいてよ」
里沙がそれを止めて、紙切れとボールペンを差し出す。
『アビスクイーン 投票』と書いてある。
何このネーミング。あたしの服装よりきっと変なはず。
「これにあたしの名前かいてよ」
「もしかして、あたしそのために呼ばれたの?」
というと
「ちがうけど。あたしが呼んだんじゃないし」
といって里沙が少し拗ねた。
その隣で亜弥が醒めた笑いを浮かべる。
妙に迫力あってなんか亜弥も怖いわね。
この二人に比べたら芦原ってかわいいかも。
茉奈と渚とかまじ天使。
「おいおい、ずるはだめだろ」
後ろから降ってきた声。
振り向くと高山くんだった。
いわゆる黒っぽいおしゃれスーツを着ている。
似合っていて確かにかっこいい。
髪型もいつも学校でみているのとは違う。
大人っぽくて二十歳でも通りそうだ。
「だってぇ。また一番になりたいんだもん」
いたずらが見つかった子供のように甘えた声でいう。
あざといの見本ですね。
「ばかだなあ。里沙なら大丈夫だろ」
里沙が高山君にしなだれかかる。
ええ、ちょっと目の前でいちゃつかれても目のやり場に
こまるのですが・・・。
ちらりと横を見ると完全に作り笑いの亜弥がいた。
この子怖。
「そんなことより里沙、竹本がさがしてたよ。
そろそろスタンバらないと。コンテスト始まるよ」
「うん、じゃ頑張る」
などと可愛らしい声をだして、里沙が去っていった。
亜弥はここに残るものかと思ったのだけれど。
里沙と一緒に去っていった。
あたし、今、高山君と取り残されている。
彼がにっこりとあたしの笑いかける。
魅力的でドキリとした。
え、ちょっと待ってドキリって何。
この子はあたしより10歳はしたなのよ。
こんな自分に罪悪感。
「あっと、えっとお、高山君は里沙たちと行かないの」
我ながらしどろもどろで頭悪そうな話し方。
「ん、俺はヒナといる」
いいのか、これ。何だかあたし悪い大人になったような気がする。
「ちょっとかして」
といってあたしの手の中にあったグラスを優しく取り上げる。
「おいで」
手を引かれて席を立つ。
ずんずんと会場の奧へ連れて行かれる。
どこへ連れていかれるのだろう。
不安になってきた。
手を振りほどきたいのだけれど意外に力が強い。
半ば引きずれるようなかたちになった。
右手に曲がるとスタッフームと札がかかっているドアがある。
高山君がドアノブをひねる。
何、あたし服装コーデ引っかかって会場から追い出されるの。
「入って。別にこわい事は何もないよ」
「入って」も何もひきずりこまれた。




