37 パーティへのご招待
「ちょっとヒナ付き合ってくんない」
後ろの席の芦原に言われた。
連れていかれた先はあまり人が来ない東棟の3階のトイレ。
すると里沙が待っていた。
やっぱ真鈴がいってた通り芦原は里沙のスパイなんだね。
嫌な予感しかしない。
「あのさ、ヒナ話あんだけど」
「なあに」
「パーティでない?パー券1万円」
1万円とか何言っんのかしら。
「いや、あんたライン6月に削除したっしょ。
別に呼び出すほどのこともなかったんだけど」
「ああ、そだね。ツイッターやらなんやもついでに。
消しちゃったから、
あの時いろいろ混乱しててね」
本当は人の悪口ばかり気分悪くなって消してしまった。
「ライン復旧しないの?」
そうなの?あれって復旧できるものなの知らなった。
「うーん、面倒で放置してる。だってまだ思い出さないこと
多いんだもん」
「記憶戻らないの?」
「さあね。ずっと戻らない人もいるらしいよ」
里沙が鼻にしわをよせる。
これ笑うときか機嫌悪いときのサイン紛らわしい。
「ねえ。ヒナ買わない?買ってほしいなあ」
と芦原。
「なんで芦原?パー券あまってるの。
売りさばけなくて困ってるとか」
それになんであたしなの。
超いらないんだけれど。
厄介ごとの匂いしかしないうえに暴利だ。
「はあ?何言ってんのヒナ。これプレミアだよ。
高山もくるし、K大生とか都内の大学生も来るんだよ」
するとバカにするような口調で
「まさか。あんたオタクの金井で手を打つとかあ。
それ、ないわあ」
という。
へえ、金井君結構有名人なんだ。
「そういえばあんた滝川とはどうなってんの」
と里沙。
「金井君とも滝川君ともどうもなってないよ」
里沙も芦原も納得していない模様。
なんかJKってこういうところ、おばちゃんと変わらないよね。
どうだっていいじゃないの。
「まず金井君は前のあたしの方が好きらしい。いまのあたしはお友達だって」
と言った途端
「まじかあ」「やっだあ」「超うけるんですけど」
きゃははと大笑いして騒ぎだした。
よかったわ、楽しんでもらえて。
「やっぱヒナまずいわ、そのスカート丈」
「それな」
「それにすっぴんとないわ~。何それ美肌アピってんの。痛い子じゃん」
と里沙ちゃんが辛辣な発言。
「やだあ、美肌っていったら里沙じゃん。
里沙スタイルとかもまじやばいし」
あらら、芦原ったら里沙のお追従はじめちゃったよ。
里沙はまんざらでもないようだ。
何だか二人が生き生きしている。
此れって軽くいじめじゃね。
まあ、これで金井君のことはあれこれ言われなくってすむかな。
次は滝川クラス委員長か。
「滝川君はたぶん山田先生に頼まれてるんじゃないかな。
あたしがちょっと変になったから」
「・・・」
「・・・」
あれ、これには二人とも沈黙なの。
怖いよ。
かといってほかに思い当たらないし。
「まあ、いいや滝川のことは」
と芦原。
「でさあ。パー券なんだけど」
里沙が話を戻す。
「いらない」
親から十分な仕送りを貰っているし、
余った分を貯蓄しているので払えない金額ではないが
その様なぼったくりパーティに参加したいと思わない。
だいたい、そういういかがわしそうなパーティに
参加する。大学生に魅力なんで感じない。
「ねえ、頼むよ。ヒナ買ってよ」
となぜか芦原に拝み倒される。
「なんで、芦原必死なの」
「ああ、芦原ね。あんたと一緒ならパーティきていいことになってるから」
「はあ?何それ」
「あ~、メンバー規約忘れちゃった。もっともあんたも補欠メンバーだけど」
ちょっと待ってよ。何の話。
里沙が自分のスマホをタップすると呼び出した画面を見せた。
ミッドナイトブルーの海にアビスの文字が浮かんでいた。




