36 膠着?なにかと面倒
結局、沢渡さんには真鈴からきいた「アビス」とかという
しょうもない名前の半ぐれグループの話をした。
構成メンバーとかよくわからないのでたいした情報でもないけれど。
なんだか告げ口しているみたいで嫌だった。
「そういえばあんたからもらった画像、高山翔や佐藤里沙が随分映っていたようだが
何かゆすりのネタでもあったのか」
ひどい言いざまだとは思ったがわたしも同じことを考えていた。
隠し撮りが多すぎる。
「何度も言いますが、覚えていないのでわかりません」
というかわたしではない別人格なのだけれど。
信じませんよね、そんなこと。
しかし弟の修一だけはそれに気が付いているようだ。
それが怖い半面、頼もしくも感じている。
「ただ、ヒナは・・じゃない・・・その6月以前のあたしは
高山君がすごく好きで、
それを友達の里沙さんが応援してくれていたのに
実は彼女は高山君と付き合っていた。
裏切られた怒りとか嫉妬ですかね。
里沙、美人だし。
彼らもしくはどちらかを強請って別れさせ
自分が付き合いたかったのかもしれません」
沈黙が落ちる。
想定外に長い。
ちょっと気づまり。
「あの・・・あたしなんか変なこといいましたか」
「変というか、他人事だな」
じゃあ、この場で悔い改めて反省しろというのか。
はあ、目が覚めたら女子高生で今度こそ失敗しない人生を
と思ってたけれど早くも前科もちの危機。
悪事を働いたのはわたしじゃないのに、世の中ってやっぱり理不尽。
何も覚えていないというフレーズもむなしくて
「じゃあ、どうすればいいんですか」
開き直ったような言い方になってしまった。
「さあな」
と言って肩をすくめる。
そういうしぐさも結構さまになってるなあ。
「高山からはどうなんだ。何か接触はあったのか?」
「なしです」
「そうか。あんたが高山にいいよってるという話も聞いたが、
そうなのか?」
「誰がそんな話を・・・」
教えてくれるわけないよね。
「ないですよ。話したのだって一回きりですから」
「何を話したんだ」
あまり話したくはないが隠しすのも面倒だし。
「付き合ってやってもいい。みたいなこと言われました。
多分、からかわれたんだと思います。その後何も言ってこないので」
「付き合ってもいいってことは・・・あんたいつ告白したんだ」
毎度毎度、勘が良くて助かります。
「4月ごろらしいです」
「らしいですとは?」
「高山君から聞きました」
「で?」
「それだけです」
「聞き方がわるかったか。あんたはそれにどう答えたんだ」
しつこいな。警察的には気になるのかこれ。
いま付き合ってないんだからいいじゃない。
「彼女がいるんじゃないのといったら、
友達からスタートといわれました」
「からかわれたというより、馬鹿にされてるな。
なんて答えた」
いちいちうるさいな。
「なにも。友達が呼びに来たのでそれっきりです」
「なんでうやむやにした。きっぱり断れよ」
何でそんなこといわれなくちゃならないの。
「わかりました。今度何かいわれたらそうします」
もう面倒くさいので流すことにしました。
本当はわたしのほうが年上だしね。
「おまえ、いま面倒くさいとかおもっただろ」
逃げ場がない。
何このひとエスパーなの。人の心がよめるの。
というか二人称があんたからおまえになってるし。
「はあ、沢渡さんも学校の先生とかになってたら、
そんなに疑り深い人にならなかったかもしれないのに」
わざとらしくため息をついてみる。
「山田みたいにか。あいつはあんたからみてちょろいのか」
ひどい事をさらりと言う。
頭にきた。
未成年に対する態度というより犯罪者に対する態度だ。
それともこの人、わざとわたしを怒らせようとしているのかな。
そう思うとほんの少し怒りがさめた。
「どうしてそんな言い方しかできなんですか。
それじゃあ、きれいな婚約者さんにふられちゃいますよ」
でもやっぱり腹立たしいので一矢報いる。
「婚約者?幸奈がそういったのか」
「はい」
なんだやっぱり本当のことなのか。
「違う。ただの親戚だ」
すごく嘘っぽいけれど
これ以上この件に触れるのはやめよう。
本当に大切な人ならヒナのような子には知られたくないよ。
でも嫌われてるのヒナなのかな。
最近わたしなんじゃないかと思う。
ヒナって結構男性受けするタイプみたいだし。
嫌われついでに聞いてみよう。
「あの、前々から気になっていたんですけど」
「今度はなんだ。質問するのは俺の仕事なんだがな」
凄く億劫そうに呟く。
「あたし、沢渡さんに補導されたことあります?」
「俺はない」
「・・・『俺は』って気になるんですけど・・・」
「そろそろ僕の姉をかえしてもらませんか」
後ろから聞こえた声に振り向くと弟の修一が制服姿で
立っていた。
マンションへ夜道を修一に送ってもらう。
沢渡さんがメールでわたしと近所のファミレスにいると
伝え、たまたまうちにきていた修一が迎えにきた。
二人は連絡を取り合っているらしい。
「なんか・・・修、巻き込んじゃってごめん」
「別に巻き込まれてるわけじゃないよ。
あいつに姉さんの素行を聞かれてるだけ」
証拠固めってやつかな。
わたしそろそろ捕まるかも。
「そう、やなおもいさせちゃったね。あの・・・姉さんこんなだけど
修、勉強がんばってね」
「お前が頑張れってかんじだけど・・・」
「・・・ですよね。はは」
修一は近くまでよったからとコンビニスイーツを
もってきてくれていた。
家についてから二人でお茶したけれどいい弟だ。
最初あった時はこんな風に仲良くなれるとは思っていなかった。
「姉さん、それはそうと今年は年末帰ってくるよね」
「え?なに大掃除」
「家ではそれは業者に頼んでる。食事会があるんだ」
またですか。
「ええっとそうだったけ」
「いいよ。忘れたふりなんてしなくて。
本当にしらないんでしょ」
なんて答えていいのかわからなった。
真実をいえば修一に背負わせてしまうような気がして・・。




