31 修一の思い
「で、君のお姉さんは記憶喪失だっていってるけど
実際どうなのかな。君からみたお姉さんは」
街灯が照らす人気のない夜道を駅へ向かって二人並んで歩く。
沢渡は修一より15センチ以上背が高い。
整った顔に精悍な雰囲気。
それがすこし修一の気に障る。
「なんだか事情聴取みたいですね。親の許可もなく
未成年にそんなことしてもいいんですか」
「いや、ただの世間話だ。忘れてくれていい」
この警察官と姉は個人的に知り合いのようだ。
なにかとても厄介なことに姉が巻き込まれていることはわかる。
おそらく荒れていたヒナがしでかしたことだろう。
どうすれば姉を助けてあげられるのか。
修一にはわからない。
「今の姉は別人です。以前の姉とは全然違います。
記憶喪失とかそんなレベルのものじゃないですよ」
断言した。
「根拠はあるのかい?」
「表情が違う」
「表情?どう違うんだ」
沢渡はレスポンスが早い。
ついペースに乗せられてしまう。
「前はとげとげしくて激しかったのに
いまは穏やかですごく優しいというか・・・」
言い淀んだ。
少しの沈黙を挟んでから沢渡が
「守ってあげたい感じか?」
とくすりと笑いながらいう。
小ばかにされている様に感じて修一はだまりこんだ。
「それが演技だとは思えない?」
「絶対に違います」
反射的に怒りをあらわにしてしまった。
「だいたい以前の姉は性格も悪く、ずる賢い人で
いつも要領の良く立ち回っていましたが、基本それほど頭はよくなかった。
演技だとしたら、ぼろが出ないのはおかしいです」
つい感情的なって話してしまったことに修一は気づかない。
十分な間をおいてから、沢渡は口をひらく。
「なるほど。ご家族は君と同じ意見かな」
「父はあなたみたいに疑っていますよ。
母は・・・以前より姉を嫌っています」
「それはどうして」
「姉の性格がいいのが気にいらなんです。
それにすごく痩せて綺麗になったのが腹が立つんですよ」
沢渡は「おやおや」というように片方の眉を上げた。
「以前より嫌っているているってことは前から
上手くいってなかったのか」
「姉と母は性格がそっくりだったので会えば罵り合ってました。
でも今は、すごくひどいこと言われても悲しそうにうつむいてるだけで
親戚のバカな中学生にも舐められてます。
いまのあの人は損ばかりしてますよ」
「損ばかりね・・・」
「あれが演技なんてありえない。あのひとに何の得もないですから」
「でも君は僕を見たとき男を連れ込んだと思ったんだろ」
「それは・・・」
修一は悔し気に唇をかんだ。
「姉が急にきれいになったから、彼氏でもできたのかと
思っただけです。部屋もすごく清潔になったし。
だからって別に姉がうわっついて遊んでるとは思ってないです。
それにあなたも見た目はまともそうじゃないですか」
沢渡に挑むようなめを向ける。
「だいたい、あなたに姉の何がわかると言うんですか?」




