25 待ち伏せ
図書室で勉強をしていたらすっかり遅くなってしまった。由奈と渚はアイドルのイベントで早々に学校を出ている。外はもう暗くなっている。ついでに駅までの道もあまり人通りはなく、空室の目立つ団地が続いている。
晩御飯何にしよう。遅くなってしまったし、惣菜でも買うかなどと考えていると
「おい」
と声をかけられた。男の声。気が付くとわたしは全速力でダッシュしていた。
ひっ、追いかけてくる。しかも速い。
なんで最近の不審者は体を鍛えているのでしょうね。1分も逃げないうちに腕をつかまれた。ええっとこういう時はかかとで足を踏みつけるだよね、確か。しかし思いっきり踏んだのは地面で足がしびれた。
「あんた、何やってんだよ」
呆れたように言う。聞き覚えのある声。振り向くと沢渡さんだった。
「信じらんない。何やてんの。ばか」
恐怖から安堵にパラメータが振り切れ、沢渡さんを殴りまくってしまった。
「で、なんであんなところにいたんですか」
「おい、勘違いするなよ。別にお前を待ち伏せしていたわけじゃない」
ここは団地内の人気のない公園のベンチ。沢渡さんは缶コーヒーをわたしはホットレモンをのんでいる。
「とりあえず、あたしはなんちゃってじゃないことが、わかってもらえて満足ですが、沢渡さんはなぜあの場所に?通りかかったにしては学校しかない場所ですし、あれじゃ不審者ですよ」
「失礼なやつだなあんた」
そういう割にはあまり気を悪くした様子はない。
「佐伯ヒナです。いい加減名前覚えてくださいよ」
しっしっと追い払うように手をふる。心底わたしの相手が面倒くさそうだ。これがこの得体のしれない人と一緒にいても安心してしまうところだ。わたしにまったく興味がない。なんというか襲われる心配がまったくない。これっぽちも。全く。あれ、わたしまったくを何回つかったかしら。
「佐藤里沙をしってるか?」
「ん?同じ学年です。ってかどうして里沙の名前、知ってるんですか?まさか・・・タイプとか・・・ストーカーだ」
いった瞬間デコピンを食らってしまった。
「痛いです。女子高生の顔に何をするんですか」
などとしばらく文句を言ったあと
「で、何かしりたいんですか?」
ときいてみた。
「佐藤理沙の交友範囲」
そういわれても・・・。さすがに相手の意図を考えないわけにはいかない。20代の男性がなぜ女子高生のことを調べるのか。警戒してしまう。沢渡さん、まさか本当に里沙のストーカーじゃないよね。
里沙は確かにいけ好かないやつだし、庇ういわれもないが、だからと言って情報をうっていいってことにはならない。しばし考える。
「何か、しらべているんですか」
結局直球で聞いてみた。
「なら質問を変える。あんたのお友達か?」
切りかえされた。沢渡さんはおそらく前世のわたしと同じ年か少し若いくらい。一見ぶっきらぼうだが対人スキルはわたしより全然高い。情けないかぎりですね、はい。わたしを名前で呼ばず「あんた」というのも距離感を保ちたいのね。了解です。
「以前は友達でした。多分・・・」
「ああ。覚えてないって話か」
沢渡さんに信じている様子はない。
「だって本当に覚えてないんだからしょうがないじゃん。てか里沙のいるグループ派手らしいですよ。他の学校の生徒もいるみたいです。あたしも以前いたらしいけど。今は友達もグループも違うし、あの子たちが何をしているかなんてわからない。まあ、学校内ではトップカーストっていうのかな?今はそういういい方はしないのかな。とりあえず、もてて目立つ女子と男子の混合グループですよ」
「俺はてっきりあんたらはパパ活仲間かと思っていたがな」
その言葉に軽くショックを受けた。もしかして沢渡さんは過去のわたしを多少なりともしっているのだろうか。
「あの・・・もしかして、あたし昔沢渡さんにパパ活とかしてました」
「・・・・」
沈黙が怖い。
「あの・・・もしもし」
恐る恐る声をかける。
「は?俺をいくつだと思ってるんだ。まだ20代だぞ。オヤジ扱いもたいがいにしろ」
あれ、そっち?で怒ってたの、そこなの。沢渡さん、気を取り直して。
「まあそれはいいとして。百歩譲って、記憶がないとしても、いまは彼らと友達じゃなくても。写真やら、SNSやら交流していたあとは残っているはずだろ。何も分からないというはおかしい。それに、この間国道で襲われたじゃないか。あんな目にあって自分のことを調べていないなんておかしいだろ。調べようとすればある程度分かるはずだ」
ヒナのパソコン内のデータが頭にちらついた。そこまでこの人を信用してもよいのだろうか。わたしに危害を加える気はないのはわかるが、得体がしれないことには変わりはない。堅気の人にはみえないし、どういう目的で何を調べてるのかもわからない。
そこである考えが浮かんだ。
「もしかして、沢渡さんって雑誌の記者かなにかですか」
「俺が雑誌記者で取材料として金でも払えば話すのか」
否定しない。どうやらわたしはあまり好かれていないし、信用されてもいないようだ。まあ、信用させようとして好意的な態度をとられ、挙句の果てに騙されるより良いのかもしれない。それとも大したことは知らないと見透かされているのかな。
「お金をもらえるほどの何かをしってるわけじゃないです」
わたしはカバンをもって席をたった。




