22 日常か?過去からの来訪者 その2
ホームルームの後、なぜか日向真由先生質問コーナーが、始まった。担任で独身の山田先生も見守っている。思いっきり楽しそうだ。男子だけではなく女子も数人のこっている。わたしも何となく芦原と残る形になった。さんざん悪口いってた女子たちが
「先生肌綺麗!なんのコスメつかってるんですか」
などと質問をしている。ほんとJKのやることっておばちゃんと変わらない。
「そうかな。うれしいっ。実習準備が忙しくて、先生なにもしてないの」
小首をかしげ可愛らしい笑顔でこたえる。女性陣の空気、今、凍ったよね。そろそろ帰ろう。芦原、さっきから掴んでいるわたしの腕を放しなさい。
「ヒナもなんか質問してよ」
と小声でささやく、さっきまでぷうさんって、呼んでたじゃない。というか里沙以外ほとんどはヒナと呼ぶ。しょうがないので帰る前にひとつ質問してみることにした。
「先生はどんな。アルバイトしてたんですか?」
その質問にはなぜかクラスのお調子者の矢部とかいう男子がこたえた。
「先生、塾教っすよね。俺先生の教えてる塾いきたいわぁ」
あなたに聞いてないよ。それを境に男子たちが我先に日向先生と話そうとする。
「ちょっと待ってよ。佐伯がした質問のこたえちゃんとこうよ」
仕切り直しをしたのはクラス委員の滝川くん。あなたもしっかり参加してたのね。やっぱり美人教育実習生興味ありますよね。
「うふふ、塾で教えてたこともあるけど。こう見えて、私ガテン系なの」
力こぶをつくるしぐさをする。かわいい。
「おおっ」
と男子たちがどよめく。女性陣との温度差が半端ない。こちらはまた一度下がった模様。
「3年くらい前かなあ。丼ぶり屋さんでバイトしてたの。お客さんは近くの工事現場の人とか?おじさんが多かったかな?」
「ええ?意外」
女子の方からも声が上がった。
「もう毎日毎日重いどんぶりもって大変だったよ。筋肉ついちゃて」
確かにあのバイトはきついですね。こころの中で相槌をうつ。ん、でも「重ーい」とか涙目でいって、男性アルバイトに手伝ってもらってなかったか?などとわたしが回想に浸っていると彼女のアルバイトの思い出話は次のステージへ。
「でね。そこにね。30過ぎくらいのバイトのおばさんがいたの」
「え?なにいじめられたの」
「うーん、そういうんじゃないんだけど。なんていうかあ。その方独身で、30過ぎでアルバイト?定職がないってやつ」
「うわーそれきつわ」
周りの生徒たちはその矢部の言葉に同調していった。
「で、そのひと、なんていうのかな。あたしの面倒を見てくれようといろいろとしてくれたんだけど・・」
言いにくそうな表情を見せる。
「仕事が・・・遅いし?ミスも多くて結局どんぶり100個?だったかな。割ってくびになっちゃったの」
100個は盛りすぎ。
「ほんとひとの面倒より自分の面倒みっろて話っすよね」
と矢部。クラスの連中は「うわー痛いわぁ」「やだ。将来そんなおばちゃんになっちゃったらどうしよう」などと口々にいっている。
「でね。そのひとわたしが入るまでは、男性ばかりのバイト先に女性一人だったのにまわりの人に全然相手にされないの。なんていうか気が利かなくて、受けがわるいっていうの?」
「うわあー。そのおばさん絶対男目当てのバイトだよ。真由先生ほんとはいじめられてたんじゃないの?そのおばさんに」
ずけすけといってくれる。
「ううん。そのことは、もういいの」
と悲し気に首をふる。え?誰がいじめたって。そんな事実ありました?サバよみ腹黒さん。
「先生、その人みて思ったの。きちんと生きようって。頭を使うこともなく、考えることもせず、無目的に生きて流されてしまうのは嫌だなあって。上手くいえないんだけど。だからみんなも毎日毎日を悔いのないように一生懸命生きて」
というなんとも嘘くさい言葉と魅力的な微笑みで締めくくった。さすがにお腹がいっぱいになってサクサクと一人で帰ることにした。廊下にでたところで声をかけれた。
「佐伯、顔色悪いぞ。大丈夫か?保健室にいくか?」
何?山田先生。日向先生といなくていいのか。教室はまだ雑談で盛り上がってるよ。先生はちらりと教室をみて
「ああいうのはあまり感心しないな」
苦笑いを浮かべた。意外過ぎる。ああいうタイプ見透かしちゃうのですね。
少しほっとした。




