18 とある商店街の喫茶店、再び
この前の喫茶店で沢渡さんと差し向い。なんかきついなこの状況。妙に緊張するのよね、この人といると。でもいまは安心感もある。相反するおかしな感情が湧き上がる。
「で、あんた、あそこで何してたの?」
「・・・・」
黙秘したいな、この質問。
「あの、そんなことより、こんな近くにいたりしたら、お巡りさんに見つかったりしませんか?」
最大の懸念事項を口にした。
「灯台下暗しだよ」
堂々としているというか太々しいというか。
「・・・やっぱり、普通の会社員って嘘ですよね」
「おい、こら、質問してんはこっちだよ」
とりあえず軌道修正された。ほんとのこと言っても信じてもらえないだろうし。かといってこのままのらしくらりと躱せるだろうか。
「えっと、マンホール探してました」
我ながら間抜けな受け答えだ。
「は?」
怖いから睨むのやめてください。
「いや、あの・・・そうだ。なんで沢渡さん、あんな場所にいたんですか?」
「ん?俺は散歩だ」
いいきった。
「散歩に適した場所とは思えませんが・・・」
そこまでいってにらみ合いになった。先に目をそらし下を向いたのはわたし。マウンティング失敗です。
「いや、あの実は・・・事件というか事故を調べてまして」
「ほう・・・で?」
さきを促されても困るのだけれど。
「最近、その・・団地やら、駅やら、マンホールやらで転落死が続いているときいて・・」
ごにょごにょと語尾をごまかす。
「よく知っているな・・・そんなこと?いや、ネットでみたのか」
「まあ、ネットっていうのもありますけど・・・。最初は先生に聞いたんです。そういう事故が続いているから、気をつけろって、それから友達にきいたりして」
「ふーん」
本当の話をしているのだが、信じてない様子。
「で。先生って何?」
「え?何って高校の担任ですけど?」
「・・・あんた。ほんとの高校生?なんちゃってじゃなくて?」
ほんとにそうなのかと呟きながら顎をさする。半信半疑のようだ。前からそういっているのに。なぜ、信じない?わたしどれだけ怪しいの。沢渡さんはコーヒーを一口飲むと口を開いた。
「はなしをもどすが、まず繁華街で中年男性に追いかけられてた件。次に羽衣駅東口の不動産屋で会った件、それからアパートを訪ねてきた件、で今日の件。それはなにかつながりがあるのかな」
いきなり切り込んできた。武闘派と思いきや、頭もしっかり使うタイプなのね。面倒くさい。しかしこの人なんであんなに腕っぷし強いの?一瞬、警察の人かと勘違いするところだった。ほんと何者?。でも助けてくれたんだよね。
ん・・・助けたのか?あれ。
何かを彼らから聞き出そうとしていたような気もする。それになぜあの場所にいたのか。偶然にしてはおかしい。ともあれ
「繁華街の件は・・なんだかよくわからないです。パパ活ってやつですか?多分誰がと勘違いして追いかけてきたんじゃないかなと」
疑わし気な視線を感じる。
ん?もしかしてあの時、追いかけれているわたしを助けてくれた?
いやいや違うでしょう。乱暴すぎる。あっと・・・次の質問にこたえなきゃ。これ難しいな。
「不動産屋・・・やっぱり私も引っ越し?」
ああ、怖いから睨まないでください。納得できないですよね。こんな話。
「で、さっきのは・・・。えっと、ひょっとしてあたしが過去に恨まれるようなことしたのかも?」
うわあ沢渡さんからの威圧感半端ない。お怒りのようで。ええい言ってしまえ。
「あたし、実は6月ごろから記憶が混乱するというか正しくは記憶障害?とかいうらしいんですけど
今年の6月以前のことほとんど、っていうかきれいさっぱり覚えてないんですよ。あはは・・・」
沢渡さん、怒り狂うと思いきや
「くだらねえ」
としらけたように呟くとおもむろにテーブルに2千円をおいて席をたった。
珈琲二人分に2千円って多くない。というか静に怒るタイプなの?意外過ぎる。
これは見捨てられたな・・・。
わたしは清算をすませて慌てて店をでる。スタスタ商店街を歩いている沢渡さんをみつけた。お金返さなきゃ。追いつくとジャケットをしっかりとつかむ。何故だか手に力がこもってしまう。勝手に言葉が口をついて出る。
「ごめんなさい。変なことばかりいって。理由があって3年前に203号室に住んでた人のこと調べてるの。ただそれだけ。ほんとになんでこんな目にあうのかわからない。あたしが一番知りたい。だから、怖いから、家まで送って。あの、途中まででいいのでお願いします」
支離滅裂だけれど本音を吐露していた。
これが泣きつくってやつか・・・。
今頃になって震えがきた。




