遭遇?
放課後の廊下を走り抜けながら、オタクの体力と運動神経を侮っていた自分を呪う。ええ、今度は階段二段飛ばしですか。わたしが踊り場で息をついている間に、オタクは軽々と階段を登り切り廊下を右へ。逃がしたかと思い階段を上り右手を登りきると。
「さっきから、追いかけっこしてるけど、こいつに何の用?」
オタクは高山某に首根っこを捕まれおとなしくなっていた。背の高いスポーツマン体型の高山と小柄でやせ型のオタクでは体格差がありすぎる。少しオタクが哀れになった。
高山氏はさわやかな笑顔をヒナにむけていた。なんでだろう?あたしの事知ってるの?そういえば以前、山田先生に高山と親しいのかと聞かれた事があった。というか高山君って里沙の彼氏だよね。
「あ、いやなんかわたしに用があったようだから、・・・なにかなって」
素直に言わず、適当にぼかす。いや随分しどろもどろだな。
「は?でも金井を追いかけていたのは佐伯だろう」
金井というのかこのオタク男子。
「声かけようとしたら、その逃げちゃって」
そりゃ盗み聞きしてた所見つかったら、とぼけるか、逃げるかしかないだろう。ああ、開き直るもありか。すると高山が
「俺も一緒にきこうか?」
と心配そうにいう。あれ、こいつ結構いいやつなのか。いや、たぶん違う。
「ううん、その人、今わたしと話したくないみたいだからいいや」
「へえ、そう?じゃあ、離すけど」
パッと高山が手を離すと金井は脱兎のごとく逃げて行った。なんなんでしょうかね。あれ・・。
「佐伯、弄んじゃ駄目だよ。ああゆうタイプ」
クスクスと笑う。気のせいかさっきから高山のこの態度に違和感がある。そう、なんていうかヒナに仲間意識でもあるような。でも彼と話すは、佐伯ヒナになってからこれが初めてだ。こういっては何だが、ヒナはさんざん彼を追いかけて、あろうことか盗撮していた。しかも里沙とのデート現場まで。随分きわどい写真も撮っていた。気づいていないなんてありえない。それを知った二人が面白がって笑っていたにしても、気持ち悪がっていたにしても、およそヒナに好意の持ちようがない。なのに味方ですよと言っているかのような態度。
「じゃあ、あたしいくね」
「ちょっと待って」
高山がわたしの歩みを阻む。
「あのさ、今ならあの話考えてもいいかなって、おもうんだけど」
「あの話?」
はて何のことだろう。さっぱりわからない。
「おいおいとぼけるなよ。お前から言ってきたんじゃん。付き合ってくれって」
口調はあくまでも柔らかく、呆れような顔でいう。
「はい?って、え・・・あれ」
ヒナちゃんたらいつの間に。
「そういや里沙が佐伯が記憶喪失になったなんていってな。大袈裟だなとは思ってたけど」
高山くんは楽し気にくすくす笑っている。いい笑顔だな、鑑賞に値する。里沙と付き合ってなくて、
ヒナが盗撮した写真がなければ二つ返事でお付き合いかも。いやいや、おちつけわたし相手は高校生だ。なぜ翻弄される。
「えーっと、それはいつ頃の話かな?なんて・・あはは」
あははでは済まない気もするが聞いてみる。
「ん?4月ごろかな」
おやおや、もう10月ですよ。もうすぐ文化祭ですよ。いままで放置ですか。
「あれ?でも付き合ってる子とかいるんじゃないの?」
「いやいや、佐伯とつきあうっていうんじゃなくて。友達からスタート」
場慣れしているな。さりげなく躱している。
「この間、電話したらいきなり切られちゃうからびっくりしたよ」
「え?電話・・・」
ああそういえば。思い当たる。
「いたずら電話かと思ってきっちゃた。わたし高山君の番号知らないし」
「なんだ、そうだったんだ。あれ里沙から聞いたんだ。何も聞いてない?」
里沙が話すとは思えない。なんだかこれ面倒くさい展開なのではないか。
「あ、いたいた。佐伯。山先が呼んでるよ」
おお、クラス委員滝川ナイスタイミング。山先は山田先生のことね。
「じゃあ、わたしいくね」
そそくさと去ろうとすると高山くんが一瞬すごい目で滝川を睨んだ。なんなの、男の嫉妬?ってそんなわけないかよね。うん、それだけは絶対ない。強いて言えば面子の問題?プライド高そうだからな。
「またね」
笑顔で高山君に手を振るとあちらも爽やかな笑顔で軽く手を挙げた。裏表あるのよね。きっと。
職員室に行く道すがら、
「ごめん。佐伯。山先がよんでるって嘘なんだ」
「え?」
「なんだか困ってるみたいだったから、声かけたんだけど余計だったかな」
いや、それはありがたかったけれど、いまひとつ人間関係がわからないのでここで「ほんと助かったよ」などといっていいものか、躊躇われる。それが高山君の耳に入れば面倒なことになりそうだ。あの手合いはプライドを傷つけるとえらく面倒くさいことになる。
「ううん。いつも気を使ってくれてありがとう」
論点をずらして返事した。あれ、わたし人間不信かな。




