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俺は、この自分自身の状態を把握して、苦笑した。
(郷愁……ってやつか)
異郷のさびしさから故郷に寄せる思い、ノスタルジアとは、不思議なものだ。
俺は、トラックに撥ねられて死んで、この異世界に転生した。
俺は、スーパーに買い物に行っていた世界ではすでに死んだ存在なのだ。
女神エストにも諭されたし、俺自身でも理解もして、結構わりきっているつもりだった。
(でも、結局は……つもりだった、ってことか)
と、俺は、思った。
俺は、無理やり目をつむった。
視界が閉ざされた暗がりの中、港の笑顔が少しずつゆるやかに薄まりやがて消えていった。
「……ラ」
(港……)
「ソラ?」
イフの幼い声がした。
「どうかしましたか?」
イフの気にかける言葉に、俺は、現実に引き戻された。
どうやら、意外と長い時間考え込んでしまったようだった。
「……いや、なんでもない」
俺は、短く言った。
俺とイフは、冒険者ギルドの建物の中に入っていった。





