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まったくの想定外の光景に、俺は動揺を隠しきれなかった。
ファウンデーションは、確認できなかった。
ファウンデーションは、ボディーラインを整えることによりその上に着る衣類のシルエットをより美しくするためのものだ。
いや、まわりくどい説明はやめておこう。
イフは、胸元に下着はつけていない。
イフのいわゆるひかえめな胸には、下着は不要だったようである。
俺の脳内で、まな板にしようぜという言葉が呪詛のように反芻連呼されていた。
(……何て、ことだ……っ!)
俺は、唇を噛んだ。
これは、役得とみせかけた毒だ。
チンピラの時のようにイフに「いやらしい」人認定されるのはごめんだ、例えそれが誤解であったとしてもである。
このシチュエーションは、聞いたことがある。
胸がチラチラするシーン、つまるところの胸チラシーンだ。
美少女ゲームに造詣の深い友人がいて、その友人の見識によれば、この胸元がチラチラちらちらするシーンは、お約束シーンであり攻略フラグがたつシーンであり好感度がだた下がりするシーンであり、夢もいっぱい詰まっているがその逆もしかりという、諸刃の剣の要素が多分に含まれているもの、らしい。
『紙装甲を愉しめ』
ただそれだけだと熱のこもった友人の一言が、思い出された。
俺にはよく言葉の意味がわからなかったし、とにかく、そんな賭け事みたいなシチュエーションは、ごめん被りたい。
その友人は、よく電気街と称された街まで出かけていってタペストリーとかマウスパッドとか限定CDとかそんな予約特典つきのゲームを購入して、たいしてプレイもしないで部屋にゲームの無駄に大きめの箱を山積みにしていた。
積みゲーといって、美少女ゲーマーにとっては勲章のようなものらしかった。
ちなみに、友人の名前は山田なのだが、山田とのやり取りを思い出したことは、俺が今リスキーな状況におかれているということを再認識されるにとどまった。





