1-9
「……思い……出したよ」
エストは、俺の次の言葉を、黙って、待っていた。
「俺は、トラックに撥ねられて、死んだんだな」
と、俺は、言った。
思い出した、自身の身に起こった出来事を口にすると、なぜか他人事のように、聞こえた。
しかし、この記憶が正しいのならば、まぎれもない事実である。
俺は、こうして、普通にしゃべることができるし、手足も自由に動かすことができるし、そういうことが、俺を、事故にあったという実感から、遠ざけているのかもしれなかった。
俺の言葉に、女神エストは、沈痛な面持ちで、
「はい。そうです」
と、短く、言った。
広大な青空の空間に、一陣の風が、吹いて、エストと俺の髪を、揺らした。
(俺は、今、どこにいるんだ?)
俺は、自身の服を、見た。
俺の服装は、最後の記憶の時と、同じだが、あれだけの事故にもかかわらず、どこも傷んでいないし、血も一滴も付いていない。
「あの女の子は……」
と、俺は、どうしても気になる一言を発して、途中で、言い淀んだ。
「女の子は、助かりました」
エストの言葉に、俺は、胸のあたりが、温かくなったように感じて、つかえが、静かにとれていくようだった。
「……そっか」
とだけ、俺は、言った。