1-8
俺は、道の真ん中ほどまで出てしまっていた、女の子の手を掴んだ。
「向こう行って!」
と、俺は叫んで、女の子を歩道まで放り投げるように突き放した。
短めの髪の女の子は、目を丸くしていた。
女の子はぽかんとしていて、自身に何が起こったのか、わからないという表情だった。
掴んですぐに離した、女の子の手は、とても小さくて温かかった。
他人の手を握ったことなど、本当に久し振りで、その温かさに一瞬とまどった。
ここまで、ほんの数秒の出来事だ。
つんざくようなトラックのブレーキ音が、鳴った。
俺は前のめりの体勢になっていて、それから、自身の身体の側面に体験したこともない衝撃を感じた。
(だよ……な……)
と、俺は、思った。
トラックが、俺を撥ねた音がした。
重く鈍い音である。
気付けば、勢いよく撥ねられた俺の身体は、宙を舞っていた。
俺の視界には、綺麗な夜空が一面に広がって、すぐに、景色がアスファルトの地面が上で夜空が下にというあんばいで、逆さまになって映り込んだ。
(死んだ、な……)
そんな漠然とした予感が、俺を包み込んだ。
真っ赤な視界からうねるように塗りつぶされていく真っ白な視界が、俺の前に広がった。
足のつま先から頭のてっぺんまで、雷光のような鋭さと速さで、激痛が駆け巡って、またたく間に、俺の意識は消し飛んでいた。