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俺とイフが、立ち寄ったのは、街の中心から少し外れた住居が立ち並ぶ区画だった。
「お店は、あまりないんだな」
俺は、辺りを見回しながら言った。
「そうですね。お店は、街の中心に集中していますから。ただ、この辺りでも、永年やっている美味しい飲食店がいくつかあったりします」
と、イフは、言って、
「あのお店は、野菜スープで有名です。私も、何度か行ったことがあります」
「そう言えば、野菜を売っているお店も、多かったな」
俺は、この街に来てはじめて声をかけた八百屋の親父さんの顔を思い出しながら言った。
「はい。ヴィセントやその周辺は、野菜の栽培に適した土地ですから、農業が盛んです」
「トライデントも、そんな感じか?」
ヴィセントの近隣の街は、トライデントという名前だったはずである。
「そうですね。トライデントのほうが王都のヨルムレイよりなので、ヴィセントよりも商業色が強いかもしれません」
(王都、ヨルムレイ……か)
地理関係も、少しずつ頭にインプットしていく必要がある。
子供たちがボール遊びや輪投げに興じていたり、女性たちが立ち話をしている。
何だか牧歌的な光景に、心が和んだ。
「着きました」
と、イフが、言った。
何の変哲もない一軒家である。
イフは、年季を感じさせるドアノッカーをこんこんと鳴らすと、しばらくしてからドアが開いた。





