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俺のいた世界のテレビ番組のひな壇でおおいにスベってしまった芸人の一言のようである。
「一流は、負けるはずがないんだああああああああああああああああああああああああああ……っっ!」
と、セドリグが、叫んだ。
セドリグのオールバックの髪は、だいぶ乱れていた。
ぴゅおおおおっと風がないだ。
ネットで漁った程度の知識だが、ひな壇で活躍する芸人すなわちひな壇芸人は、数名以上のゲストが集まるテレビのトーク番組やバラエティ番組において準レギュラーなみの頻度で出演するお笑い芸人のことである。
司会者が振った話題をひな壇にいる芸人同士で回して盛り上げることもあるし、いじられ役になることもあるし、ツっこみやヤジを入れたりするのである。
むろん、対司会者のみならず、ひな壇芸人同士の連携も重要だ。
フォーローしあったり拾いあったりである。
盛大にスベったセドリグの叫びは、フォローも拾いようもないもなかったし、同じひな壇にいるわけでもない俺たちが義理立てする必要もなかった。
「一流の僕は……っ……いや、一流の僕が……っ!」
あえぐように息をついだセドリグは、ふらふらっと身体を傾けた。
「セドリグさん……」
イフが、複雑な視線をセドリグに向けていた。
イフとセドリグの関係は、俺は、正直よくわからない。
肩書のうえでの商売敵であるとか顔見知りであるとか婚約がうんぬんかんぬんであるとか、いろいろあるだろうし、それに俺が知らない何かもあるかもしれない。
「……」
無言のイフの表情は、うつむいた拍子に、前髪で隠れてしまった。
イフなりにいろいろと思うところがあるのだろう。
「三流風情に……三流風情がああああああああああああああああああああああああああ……っっ!」





