4-468
もっとも、俺が知っている石蹴りの遊びかたは、そのような本格志向のものではなくもっと単純である。
ゴルフのようにカップに見立てた一つの枠を用意して誰がそこに少ない打数で正確に蹴り込めるかとか誰が一番遠くまで小石を蹴り飛ばせるとかだった。
このあたりの遊びかたの云々(うんぬん)は、年代や地域によりまちまちだろう。
いわゆるローカルルールというやつもある。
トランプの大富豪での革命や8切りやJバックやスペ3返しのようなものだ。
ただ今の俺の石蹴りは、枠がどうだとか飛距離がどうだとかローカルルールがどうだとかはあまり関係がなかった。
俺が企図したのは、とにかくセドリグに向かってセドリグに直撃させることなくセドリグからあまり離れない位置に小石を蹴り込むことだった。
それが、俺の狙いだった。
『九重君のおお……ロングシューウウウゥゥゥゥトオオオオオオオオ……はああああああっ!』
『すさまじい威力だあああ……っ!』
『は、速い……すさまじい速さだあああああああ……っ!』
『受けるキーパーのセドリグ君はああああ……っ? あああああ……っ! う、動けないいいいいいいい……っ!』
俺のいた世界で大人気だった少年サッカーの漫画の実況の声が脳内で大音量で響き渡りそうなほどだった。
大きく口を半開きにして大きく目を見開いたセドリグの近くを、鋭い風圧とともに、小石がばちっとかすめていった。
セドリグのタイトになでつけられたオールバックの髪が風圧でばあっと揺れた。
スーツも大きく揺れたものだから、パフドで挿されていたポケットチーフが胸ポケットから飛び出して、宙を舞った。
「……ひっ……」
か細い呼吸のような声だった。
セドリグは、そんな声を上げただけだった。
すべては、一瞬の出来事だった。





