4-456
セドリグは、単身このネムリアの森に入って、イフに冒険者の道を諦めさせるにこんな戦闘を仕組んだということだ。
そして、それは、今回の一件がセドリグの独断で行われていることの証左とも言えるのではないだろうか。
セドリグのノーハン商会の若頭補佐という地位は、それなりの地位だと思われる。
そういった地位の者が、冒険者のクエストの対象となる森のこんな奥まで一人で踏み込むということは、考えにくい。
ノーハン商会の者としての行動というよりもセドリグ・ノーハンという一個人としての行動と見たほうが、自然である。
セドリグは、ノーハン商会の指示で動いているわけではなさそうだということだ。
(やつの独断専行だとすると……)
と、俺は、思案した。
ノーハン商会はセドリグにイフとの婚約という成果に対する何らかの見返りは確約したのかもしれない。
しかしながら一方で、その成果にいたる手段については関知していないといったところだろうか。
俺は、頭の中でそんな推理をしながら、
「イフと一緒になるってことは、ノーハン商会とリリーカルナ商会とが手を結ぶってことだよな」
と、言った。
「……結果的にはそうなるのかな」
と、セドリグは、はぐらかすように言って、
「素晴らしいことじゃないか。両商会の新しい未来への第一歩と言ってもいいと思うよ」
と、続けた。
「その功績によって、あんたは上からのお目見えがよくなるのか?」
「どうだろうね」
やはり、セドリグは、そんな曖昧な言いかたをした。





