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おそらく、結婚の条件の一つに、イフが冒険者をやめるというのがあるのではないか。
(結婚……か)
数日前まで一介の学生にしかすぎなかった俺には、縁もゆかりもない言葉だ。
ゆえに、理解からもほど遠い、いや遠すぎる。
俺は、イフをちらりと見やった。
むんっと控えめな胸を張ってしっかりとした姿勢で立っているイフである。
通常運転モードに戻りつつあるようだ。
(とりあえず、もう大丈夫そうだな)
俺は、心中苦笑した。
(イフのじいさんとは面識はないが……)
リリーカルナ商会の会長すなわちイフの祖父が、イフに跡継ぎになってほしいと願っているのならば、理解は難しくはない。
商会の仕事に専念してほしいだろう。
それに、何といっても冒険者は危険と隣り合わせの職業である。
孫に商会のことをゆくゆくは任せていきたいと考えているのならば、冒険者稼業は、いろいろな意味で微妙なラインだ。
(この商会の合併がらみの話……)
ノーハン商会の拡大をもくろむセドリグとリリーカルナ商会を安定させたいイフの祖父との思惑が、一致したのだろうか。
どちらがどう話を持っていったのだろうか。
どちらかがそそのかしたのかたぶらかしたのか。
どちらも乗り気だったのか。
すべては、俺の憶測を出ないところだ。





