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「水面下での両方の商会の反目が続いていたわけだが……」
「それが、ここにきて、長らく犬猿の仲だったリリーカルナ商会とノーハン商会が、手打ち……盃を交わすという噂がある」
「ノーハン商会がリリーカルナ商会と手を結ぶというわけだ。何でも、ノーハン商会きっての切れ者と言われている、若頭補佐のセドリグ・ノーハンというやつが、リリーカルナ商会の会長……イフちゃんのじいさんなんだが……と交渉したらしい」
「俺も、セドリグのやつがどんな手を使ったんだか、さっぱりわからないがな」
「仁義を重んじるリリーカルナ商会と何でもありでのし上がってきたノーハン商会。水と油の関係同士が、なぜ今このタイミングでという気はするが……」
「その老舗の基盤が、危ういという声がある」
「リリーカルナ商会の基盤がぐらついているというのは、イフちゃんのじいさんが現会長なんだが、その下がお留守になっているってことだよ。イフちゃんの母親はすでに他界しているし、婿養子で入った父親は冒険者稼業にあけくれて行方知れず。会長が何とか商会をまとめあげてきていたんだが、ここにきて身体をこわしてしまったらしくてな」
(……そういうことか)
話が、何となくみえてきた感じだった。
「なんで、こんなこと……」
イフは、セドリグに向かって言葉を絞り出すように言った。
セドリグの所業に、イフは、憤っているのだがそれなのに一方でとまどっている。
非情になりきれない悲痛な小さな叫びだった。
「イフのために決まっているじゃないか」
そう言いながら、セドリグは、微笑した。
その言いかたは、当然とでも言いたげだった。
「……私の……ため?」
イフは、訳がわからないというように唇を震わせた。
セドリグは、スーツの襟のほこりをはらいながら、
「イフ。君は、こんなことをして時間を浪費すべきじゃない」





