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「どうかしたのかな? ココノエ君」
セドリグが、微笑しながら言った。
余裕の表情のセドリグの瀟洒なスーツを、森の風がわずかに揺らしていた。
俺は、身体をむしばんでいる疲労感を押しこめて、
「……少し昔のことを思い出していただけだ」
と、言った。
ふうんとセドリグは鼻をはならした。
「昔話に花を咲かせるような状況でもないようにも思えるがね」
「……」
俺は、黙った。
疲労や緊張で、観察力や判断力がどうしようもない方向すなわち明後日の方向にでも向いてしまっているのだろうか。
俺の頭の中でも、いろいろな思考が錯綜してうまくまとまらなかった。
「顔色がすぐれないようだが?」
セドリグは、どうでもいいような調子で俺に聞いてきた。
「……あんたが、そう思うんなら、そうかもしれないな」
と、俺は、セドリグを見すえて言った。
軽口で返した俺だが、メンタルの面で少なからず弱腰になっているのはたしかだ。
「無理はしないほうがいい。背伸びをしたところで、つまずくだけだ」
セドリグは、芝居がかった調子で言った。
その物言いたるや、煽り挑発の類である。





