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イフは、チンピラたちに絡まれてぶつかってこられた時に落としてしまったと思われる籐で編んだバスケットを、抱えた。
イフの体の四分の一ほどある、大きめのバスケットである。
イフは、石畳に散らばってしまっていた、摘んできたものだろう、花々や葉っぱや根っこなどを丁寧にかき集めて、バスケットに収めていった。
俺も、屈みこんで、イフを手伝った。
「ありがとうございます。優しいんですね」
と、イフは、柔らかい声で、言った。
女の子にそんなふうに面と向かってお礼を言われるのは久方ぶりで、俺は、なんだか照れくさくなった。
「当然のことをやっているだけだ」
と、俺は、短く言った。
イフは、サイドテールをちょこんと揺らして、横目で、
「さっき叫んだあの言葉……」
チンピラCに投げかけた言葉のことを言っているらしい。
「私をかばおうとしてくれたんですよね……ありがとうございます」
イフは、うつむき加減に、少し恥ずかしそうにしながら、お礼を言ってくれた。
イフの中で、俺に対する好感度という株価が爆上がり中のようだった。
インサイダー取引はいっさい行っていないのに、珍妙な現象である。
(こ、これは……!)
このイフという女の子は、もしかするとちょろインなのだろうかと、俺は思った。
ちょろインとは、ヒロインの属性の一つで、語源は「ちょろい」と「ヒロイン」を足したものをいう。
主人公のちょっとした行動だけで惚れてしまうヒロインを指すもので、アニメやゲームでは冒頭部分に登場することが多いとされる。





