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「うん。二回目の回転のほうが、抑揚もついていた。フォールもいい感じだった。うん、うまく歌えていたと思うぞ」
と、俺は、丁寧に続けた。
おさらいしよう。
湊は、試着室の中で回転した。
ハミングしながらである。
俺の回転に関する感想は、言ってみれば的外れの誤爆だった。
すると、おのずと正解は絞りこまれてくる。
おわかりいただけるだろうか、そう、残る事柄はハミングに限られるのである。
そうとなれば、こうなれば、もう話題はハミングしかない、この一点に絞りこまれるのだ。
(我ながら、完璧な看破だ……な?)
俺は、どや顔に移行する直前で、立ち止まった。
「……」
湊の頭上のビックリマークが、急速にしぼんでいっていた。
ずーんという効果音まで聞こえてきそうだ。
(な……にいいいいぃぃぃ……!)
俺は、心中叫んでいた。
俺は、背中に氷柱を差し込まれたかのごとく、緊張した。
湊の目がものすごく無気力になっていっていた。
「……」「……」
俺と湊は、無言になった。





