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試着室の台の上で一回転した湊と試着室の前でたたずんでいる俺に降りかかっていたのは、生ぬるい視線とか微妙な視線とか、
「……ちょっと、えっ……?」
「……あれじゃ、彼女、えっ……?」
「ひいちゃうかも……えっ……?」
そんなこそこそ声とかである。
頬のあたりに冷や汗を感じた。
(なん……だと……)
と、俺は、絶句していた。
「それじゃあないんですけどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ?」
俺の言葉をさえぎりツッコんでくるぐらいの謎の訴えかけモードの湊である。
そのツッコミたるや、キレッキレである。
漫画で言えば、確実にコマからはみ出してきているぐらいの勢いである、集中線も太めの勢いである。
「たしかに、私はくるっと回ったよね! 回ったけどっ! 回りましたけどおっ!」
と、湊が、叫ぶように言った。
湊は、ぐぐっと顔を近づけてきた。
左右対称に綺麗に整った湊の唇が、むむむっと山の形に歪んでいた。
「……じゃないよね?」
興奮気味の湊の甘い吐息が、俺の鼻孔をくすぐった。
「普通、そこじゃないよね、それじゃないよねっ? 回転の時の軸とかぶれとかそういう話じゃないよねっ? ペースとかそういう話じゃないよねっ?」
と、湊は、矢継ぎばやに言った。





