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「……湊」
俺は、呼びかけた。
「~~っ♪ うんっ……?」
湊は、ハミングを中断して、俺の顔をじっと見た。
にっこりして、俺の次の言葉を待っているような湊である。
ロングスカートが、ふわっと小気味よく揺れた。
その視線たるや、今度こそ俺に何かを期待している感たっぷりの輝きだった。
(……く)
俺は、心中うめいた。
(何だ……? よく、考えるんだ……何が起きて俺は何を見た……?)
自問自答してみた
湊が試着室の台の上で一回転して黄色のロングスカートがふわっとなって湊を前から横から後ろから見ただけである、それだけなのだ。
そんなきらきらした目で見られても、何のことなのか見当もつかないから、反応のしようもなかった。
それにしても、謎の一回転である。
「……お前は、何をやっているんだ?」
俺は、素直に疑問をぶつけてみた。
「……」「……」
俺と湊は、無言になった。
ぴゅおおっと軽い風が吹いて、試着室の簡易カーテンがしゃあああっと軽く揺れた。
どうしたことなのだろうか、一瞬、虚無の風が流れたような気がした。





