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(……俺も、猛者にはかわいがられたもんだな)


 と、俺は、格ゲーで二十連戦しても一ラウンドも勝てなかった猛者の顔を思い出していた。


 俺も、格ゲーマーとしてはそこそこ名が知られていたしそれに見合うだけの実力はあったのだが、どうしてもその猛者にはかなわなかった。


 コンボ精度や立ち回り力などでは、俺も猛者には負けていなかった。


 しかしながら、ある一点において、大きく差をつけられていたすなわち水をあけられていたのである。


 人読みのスキルが、はんぱでは尋常(じんじょう)ではなかったのだ。


 ジャンプ攻撃をガードさせた後の中段と下段と投げの三択は、ほとんど通らなかった。


 リバサ無敵技読みの俺の読みに対して、的確に反応された。


 格ゲーマーである諸兄姉(しょけいし)であれば、あるあるであると頷いてもらえるところだろう。 


(まるで、見透かされたいたみたいな感じだったな……)


 と、俺は、その猛者のことを思い出していた。


 以上のような猛者の所作は、たしかな知識と経験と努力に裏打ちされたものだ。


 俺たちの目の前にいる男性からは、そのような猛者の雰囲気さえ感じられた。


(何なんだ、この得体(えたい)のしれないプレッシャーは……)


 緊張からか、(のど)の奥がくっと鳴った。


「……」


 俺は、無言でそんな男性を見すえた。


 俺たちの前にいるのは、トライデントの街に拠点を置く商業組織、ノーハン商会、その若頭補佐(わかがしらほさ)のセドリグ・ノーハンだった。


 昨晩(さくばん)のヴィセントの街の冒険者ギルド内の酒場での一件以来である。


 俺たちが対峙(たいじ)している相手は、俺たちが見知った相手だったわけである。

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