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男性の胸元を飾っているのは、ポケットチーフだ。
胸ポケットへのそのひと挿しが、男性の装いをさらに華やかに引き立てているようだ。
(……キザだな)
俺の素直な感想である。
ポケットチーフには、いくつかの挿しかたがあったように、記憶している。
もちろんネットで漁った程度の浅薄な知識だ。
そもそも、俺自身、まだスーツを着るような年でもない。
しかるに、スーツに対する知識も、すこぶる上っ面なのだ。
そんな俺から見ても、男性のポケットチーフはなんだか絵になっていた。
四角形に畳むスクエア・フォールド、これはスタンダードかつ鉄板のスタイルである、ゆえにビジネスシーンでよく用いられる。
三つの山ができるように畳むスリーピークス、これはフォーマルな雰囲気を出すときにぴったりだ。
膨らみを持たせるパフド、これは華やかさに重点をおいたスタイルである、ゆえにパーティーシーンなどでよく用いられる。
パフドの上下を逆にしたクラッシュド、胸元に花が咲いたようにも見えるスタイルである、パフドと同類系とも言われる。
この辺りがポケットチーフの代表的なスタイルだったはずである。
目の前の男の挿しかたは、パフドだった。
男性は、演劇のパーティーシーンから飛び出してきたように、エレガントというか洒脱な雰囲気を醸し出していた。
ただし、ドレスコードはむちゃくちゃである。
この森の中で、男性の服装は、明らかに場違い感がありありと醸し出されていた。
ありていに言ってしまえば、場に合っていない。
バーベキューをするのに森にきたのにスーツ、ボーリング場にスーツ、遊園地にスーツ、キッチンに立ってカレーを作る際にスーツ、例など挙げたらきりがないが、そういうことだ。





