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「どう……してですか?」
と、イフが、かすれた声で言った。
(……こいつ)
俺は、ゆっくりと立ち上がっていた。
足の痛みも、だいぶとれた。
イフは、唇を震わせながら、
「どうして……あなたがこんなところに……?」
男性が立っていた。
すらりとした長身の男性である。
年齢は、俺よりも少し上ぐらいだろう。
「やあ、こんにちは、イフ。それに、ココノエ君」
と、男性が、柔らかく言った。
昨日の夜にヴィセントの街の冒険者ギルド内にある酒場で会った時と同じ雰囲気だ。
丁寧な物言いであるが、その調子は慇懃無礼である。
タイトになでつけているオールバックが、様になっていた。
スーツのようなかっちりとした服を着ていてみなりがいいというのが、第一印象の時と変わらない。
足元を飾っているのは、きちんと磨き込まれた黒の革靴である。
ただ、森の中だからだろう、革靴は土で少しばかり汚れていた。
「自然はいいな。少しばかり土くさいのが厄介だがね」
そう言いながら、男性は、スーツの胸元をすっすっと軽くはたいた。





