4-361
イフの放った擬似魔法の水の刃は、デエカの大木を、斜めに袈裟懸けにしていた。
ずずっという重たい音が、こちらまで響いてきた。
思いきり手応えありのようだ。
正確な魔法による狙撃である。
「直撃……ですっ!」
水の刃は泡となってはじけ飛び、泡は水蒸気となって蒸発していった。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……っ!」
突如として何者かの驚愕の声があがった。
おそらくは、大木の影に隠れていた人物の声だろう。
この感じからして、男性だろう。
デエカの大木が、音を立てて切り裂かれた。
そのまま、ずずずっと大きな音が鳴り響いた。
一本のデエカの木が倒れこんでいったのだ。
どす黒く赤い光をまき散らしていた召喚の魔方陣は、急速に収束していった。
この様子たるや、まるでどんどん膨らんでいっていた風船が、急に空気を抜かれて、どんどんしぼんでいっているようである。
召喚の魔方陣の術者である人物の詠唱が途中で止まったので、魔方陣の生成も止まったのかもしれなかった。
やがて、魔方陣は、跡形もなく消え去った。
(……とりあずの脅威はなくなったな)
と、俺は、心中そっと胸をなでおろした。
スライム百匹の群れとの死闘は、何とか避けられた形である。





