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ヴィセントの街の宿屋の銀月亭の看板娘のアカリも、朝、女神像に祈りの言葉を唱えていた。
この異世界では、女神信仰があるのかもしれない。
とにかく、今しがたイフがお祈りした相手と会話経験がある俺なのである。
女神つまりは神様と話をしたなどとは、にわかには信じられない諸兄姉も、いるだろう。
しかし、事実である。
小説は事実よりも奇なり、とは言われる。
空想の小説は事実よりも奇妙なものだ、とは言いえて妙だが、逆もまたしかりだ。
時として事実は小説よりも奇なり、とも言われることもあるかもしれない。
事実が空想よりも奇妙なことだってあるのだ。
「女神様……ねえ」
と、俺は、ため息まじりに言った。
俺の言葉に、イフは、少しむっとしたように、
「古くから伝わる聖典によると、女神エスト様はこの地のはるか上のどこか、"遥けき庭園"と呼ばれる場所から人々を見守ってくださっているそうです」
と、言った。
「……おう」
そう俺は短く返した。
たしかに、俺がエストと遭った場所は、四方を文字通り雲一つない快晴の青空に囲まれていた場所で、俺の足元の革靴は地面ではなく空を踏んでいた。
先にも後にも、ただただ、青色の空が広がるだけの空間だった。
あの場所が、"遥けき庭園"なのだろうか。
ただし、俺のいた世界の学生くらいの女子の部屋っぽい調度品、可愛らしい小さめのタンスとかテーブルとかぬいぐるみとかがあって、まるでと言うか女子高生などの部屋そのものっぽくさえあったのは、黙っておくことにした。





