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「……」「……」
数秒が数分に感じるほどに、息苦しい時間だった。
「ソラ……」
イフは、眼前の敵の群れを見すえたまま俺の名を呼んでいた。
声のトーンも、変わっていた。
抜き身の刀のような鋭さと静謐さが混じり合ったようなすっとした調子である。
覚悟を決めた雰囲気というのだろうか。
「……イフ?」
イフの横顔は、とても落ち着いているように見えた。
「冒険者にとって、道は、切り拓くもの……」
その瞳には、揺るぎのない光が宿っているようにさえ感じられた。
さわさわとイフの白のワンピースが、揺れていた。
「冒険者とは、苦境にある時こそ、その真価が問われるもの……」
よどみのない澄んだ声だ。
「こういう時こそ冷静に対処しなければなりません」
と、イフは、淡々とした調子で言った。
「……」
俺が無言でイフを見ていたものだから、
「ソラ? どうかしましたか?」
と、聞かれてしまうしまつである。





