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感心したり誉めたりしてくれるのは正直嫌ではない、むしろうれしいくらいだ。
だがしかし、である。
だがしかし、あの中二感満載の詠唱句にはできれば触れてほしくないところなのである。
気恥ずかしさが、ぶり返してきそうだ。
その時、ざっと音が響いた。
「ははっ……?」
空気が変わって、俺の笑いは急に乾いたものになった。
「そは威風にして流麗……」
イフは、俺がやってもいなかったポージングまで取りながら、詠唱句を復唱しだしたのだ。
ノリノリのイフである。
俺のいた世界の小さい子が誕生日に買ってもらった特撮ヒーローの変身ベルトを早速に装着してうれしげに変身ポーズを真似るほどのノリである。
「ははっ……? やめいやめい!」
「何でですか? ものすごくかっこよかったですよ。 ……えと、次は……」
ばっと左手を斜め上に構えたイフは、
「……そは突風にして剣……」
「こらこらっ! やめいっ! いや、やめてっ!」
俺は、ぶんぶんと手を振って制止した。
むうと少し不満げに頬をふくらませたイフである。
「わかりました……」
心底残念そうにしょぼんと手を下ろしたイフだった。





