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「取り乱してしまって、ごめん。もう大丈夫だ」
俺は、エストに謝った。
この果ての見えない青空の空間に立っているのも、あまり違和感がなくなってきていた。
人間の順応性とは、こんなふうに意外なところで発揮されるものなのかもしれない。
エストは、申し訳なさそうな顔をして、
「いえ。そんなに、恐縮なさらないでください。私のほうこそ、もっと順序立ててお伝えすればよかったのです」
それでと、エストは、前置きしてから、
「九重さんは、どこまで覚えていますか?」
と、俺に、聞いてきた。
俺が、エストの言葉の意図が読み取れず逡巡していると、エストは、
「難しく考えないで下さい。言葉通りです。あなたがここにやって来る前の、最後の記憶です」
と、柔らかく促すように言った。
「最後の記憶……?」
俺は、なかば自問自答するように応じた。
「あなたの最後の記憶……」
エストは、紡ぐように囁くように言った。
不意に、俺は、悟った。
最後の記憶は、真っ赤な視界からうねるように塗りつぶされていく真っ白な視界だ。
そう。
俺は、死んだんだ。