2-19
(まあ、こうなるよな)
と、俺は、思った。
冷たい石畳に仰向けに倒れたままの俺の視界に、綺麗な青空が入ってきた。
そうそう都合よくことが運ぶわけがないのだ。
俺は、文字通り、一撃でのされていた。
チンピラAは、チンピラBを促すように、
「気取ってしゃしゃりでてくると、どういうことになるのか、もうちっとわからせてやらねーとな」
と、言った。
俺は、ふと違和感を感じていた。
(……痛みがない)
神経が麻痺してしまっているとか、そうわけではなさそうで、いたって身体の感覚は正常で、純粋に痛みがない。
あれだけ激しく殴りつけられてこれだけ派手に倒れて転がったのだから、相応の痛みがあって、当然のはずだ。
チンピラBに殴られた右の頬は痛くなく、口の中も切れていないらしい。
(どういうことだろう?)
少し高さがない扉で屈まなかったがためにおでこをぶつけてしまった時や誤ってタンスの角に足の小指をぶつけてしまった時でも、それ相応に痛いのだから、パンチをもろに顔面でくらったら、かなりの痛みで手で顔面を押さえたままうずくまるくらいになるのではないだろうか。
それとも、興奮しているから、アドレナリンが分泌されていて、痛みの感じ方が鈍くなっているのだろうか。
俺は、ゆっくりと立ち上がったが、やはり、手足にも痛みはない。
違和感に対する静かな動揺のさざ波が、押し寄せてきていた。
きっと、俺は、腑に落ちない顔をしているのだろう。
怪訝そうな表情なのは、チンピラたちも同じだった。