2-14
「何だ、お前」
と、チンピラCが、言った。
チンピラCに続いて、チンピラAが、肩をすくめて、
「兄ちゃん、かっこつけたいだけなら、ひっこんどけ。痛い目みるぞ」
俺は、女の子の前に、飛び出していた。
勢いで出てきただけで、この行動には、俺自身が一番驚いていた。
自分が、ややもすれば、理屈ばかりをこねくりまわすことになりがちなのは、認めるところだ。
そんな衒学家の俺が、理屈ではなくこうして動いていることは、皮肉にも思えた。
女の子が、俺を見上げていた。
女の子に微笑みかけて少しでも安心させたかったが、今の俺は、心中てんぱっていて、チンピラたちと対峙するのが、やっとだった。
ちなみに、喧嘩の経験など、ゼロで、全く無縁である。
週刊誌の漫画の、めっぽう喧嘩が強い不良の主人公たちに、思春期特有の軽いありがちなあこがれを覚えたことがあるぐらいだ。
「俺らを、トライデントのノーハン商会の者だとわかっていて、そんな口をきいてるのかよ?」
商会そのものは、商業上の目的で作られた会社や組織のことを指すのだろうが、具体的な名前を言われたところで、どうしようもない。
(知るわけないだろう……)
ただ、ノーハン商会という名前には何らかの権威付けがあるからこそ、男たちは口にしたのだろう。
(……何らかの力を持った団体、の構成員、といったところか)
それと、トライデントというのは、八百屋の親父さんの話だと、このヴィセントの街から馬車で丸一日ぐらいの距離にある街だったはずである。
「黙ってねーで、何か言えや、こら」
と、チンピラAが、言った。