425/4640
4-212
俺がイエスの逆の言葉を言いきることはできないようだった。
湊は、一気にたたみかけるように、
「わかるよね? わかっちゃうよね? これもう絶対わかるやつだよね?」
と、言った。
そのたたみかけたるや、すさまじい圧である。
(……うぐ)
兄に敵う弟はいないとの名言があるが、俺は、もう一つ提言したい。
妹に敵う兄などいない、である。
うんうんと頷けた諸兄姉は、ぜひプチ格言として胸にしまっていただければ、幸いである。
あまねく世すべてに当てはまる格言とは思えないが、我が九重家ではストレートに当てはまる。
俺の目の前に、湊の顔があった。
綺麗に整った顔である。
つややかな黒髪に、くりっとした大きめの瞳、愛くるしい口元、身内ゆえのひいき目を差し引いたとしても、湊は美少女だ。
クラスでも人気者らしいし、何度か告白されたりラブレターをもらったこともあるらしい。
「今、ノーって聞こえそうになったのは、私の勘違いでいいんだよね?」
湊が、そう言った。
「……イエス」
応える俺の声は、震えていた。
(……やばい)
と、俺は、思った。





