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彫刻刀について言えば、指こそ切らなかったものの、机を大きく彫りこんでしまって先生に怒られた記憶がある。
そう言えば、俺の友人で松本というやつは、わざわざ机に夜露四苦と彫りこんで先生に激怒されていたはずだ。
別の俺の友人である山田も悪さをしたものだから、仲良く三人でそろって先生に怒られたはずである。
「ちょっと、九重君、机を傷つけちゃ駄目だって言ったでしょう!」
「すみません……」
「まったく。それに、松本君! この、よる……ろ……よん……く? これ何なの? 机を傷つけちゃ駄目だって言ったでしょう!」
「夜露四苦ぅ!」
「よろしく? 反省しているの?」
「……夜露四苦ぅ」
「……そんなにしょんぼりされてよろしくって言われてもね。まあ、わかったわ。反省しているのはわかった」
「……夜露四苦」
「あと、山田君! この、くんかくんかすーはーすーはーしたいお? これ何なの? 先生、さっぱりわからないんだけど? 机を傷つけちゃ駄目だって言ったでしょう!」
「選ばれた者にしかわからない、上級言語ですが何か?」
「上級言語? ……国語と英語の成績、あんまりよくないよね?」
「わかりやすく言うと、圧迫されがちな心理的欲求を解放したという事実を如実に表現した言い回しです」
「……くんかくんかすーはーすーはーしたいお……にそんな深い意味があるように思えないけれど……」
「先生にその言葉を言ってもらえただけで、光栄です」
「……何だかよくわからないけど、後で職員室ね?」
(……机に落書きはまずいよな)
と、俺は、思い返していた。





