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ここで手を離してしまったら、はじまる前に何もかもが終わってしまいそうな気がした。
イフが遠くに行ってしまいそうな予感がした。
イフは、俺の手を振り払っていた。
「いいえ、もういきますっ」
と、イフが、言った。
瞬間、世界がスローモーションの魔法にでもかかったように、すべてがゆっくりと見えた。
イフは、すっと一歩進んでからすっと前方を指さした。
「私たちのバトルはっ……これからですっ!」
イフは、オーバーアクションで宣言するように言った。
バーンもしくはバァァァンという効果音が聞こえたような気がした。
あるいは、ドーンもしくはドォォォンという効果音かもしれない。
カメラが下からぐぐぐっとパンしていって、イフが画面に飛び出しているようなイメージだ。
ちなみに、パンとは、パノラマが由来の撮影技法をいう。
三つのカメラから三つの異なる角度から撮られていて、三回リピートされているようなイフのどや顔っぷりである。
(どやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!)
イフの自信たっぷりの心の声が聞こえたような気がした、いや表情を見るかぎりほぼ確実である。
カメラ目線感たっぷりである。
こっちに目線ちょうだいとカメラマンに言われているぐらいのたっぷり感である。
「いや……それは、そうだな……うん。これだけのスライムに囲まれているわけだし、な……」
俺が、控えめに手を挙げながら言いにくそうに言った。





