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俺は、自身を過大にも過少にも評価するつもりはない。
夢をなくしてはつまらないが夢を持ちすぎるのも危うい、過ぎたるはなお及ばざるがごとしである。
現状での俺のステータスは、一介の住人だ。
「ここは〇〇の街です」と決まった台詞しか言わないようなNPCの通行人Aの状態かと思われる。
そんな俺にとっては、リミット九十九日間の魔王討伐は、無理ゲーに等しい。
無理ゲーを打破するのに、起死回生の手を打ちたくもなるが、古今東西の歴史をみる限り、そんな一発逆転はそうそう起こりえない。
格闘ゲームで言えば、体力差が大幅にある状況で、ばくちの一撃必殺技を発動したところで、ガードされるのがオチで、それをするぐらいなら、小足をきざんで、連続技を何セットか狙うほうが、勝率は高い。
堅実的な手法こそ、現実的なのだ。
いきなり魔王うんぬんではなく、まずは、モンスターや魔獣や魔族に関する情報を収集していかなければ、はじまらないだろう。
(今のところ、魔王の情報としては、ディストピアという名前だけしかないからな……)
Aの課題は後回しにしつつ、しかし、Aを念頭に入れつつ、他の課題を考えていくのが、よさそうだ。
次に、Bの課題だが、この異世界で活動するために、衣食住が重要だろう。
厭世家を気取って、どこかの山に籠って人と交わることなく晴耕雨読よろしくひっそりと暮らしていくというのなら、話は別だが、あいにく、俺は、ペシミストではない。
まずは、このヴィセントでの生活を確立することが、大切だ。
最後に、Cの課題だが、この異世界で活動する以上、もっと簡単に言えば、生きていく以上は、金が必要だ。
生きるための重大要素である衣食住のどれにしろ、金が必要になることは、昨日の宿屋の一件で、よくわかっている。
問題は、どう稼ぐかだ。
社会人ではない俺が、仕事として関わったのは、アルバイトのみで、その経験も、たった一種類で、夏休みの間、本屋のアルバイトをやったことがある。
紙のブックカバーをかけるのが苦手で、お客さんに急かされることも、しばしばだった。
バイトリーダーの女子大学生にも、九重君はもう少し要領がよくなったら効率も上がるのにねえと、励ましとぼやきのアドバイスをもらったものだ。





