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視界の隅っこで、小さな白いワンピースが揺れていた。
「どうかしましたか?」
俺がしばらく思索にふけっていたからだろう、イフがそう聞いてきたのである。
「昔の知り合いのことを思い出していた」
と、俺は、言った。
「……男の人ですか? ……それとも、女の人ですか?」
よくわからない問いかけだった。
山田の性別は男なのだが、イフがそれを知ったところで毒にも薬にもならないのではないだろうか、俺にはそんなふうに思えた。
「それ、重要なことなのか?」
と、俺は、聞いた。
「質問に質問で返すのは、ずるいですよ」
イフは、目を細めて言った。
「それはそうだな」
俺は、肩をすくめた。
「聞いているのは、私です」
少し屈んだかっこうになったイフは、上目つがいに俺の顔を覗きこんだ。
イフの声には、心なしか、少し不安の色がまじっているような気がした。
「野郎、男だよ。面白いやつでさ」
と、俺は、笑って言った。
イフは、ほっとした様子で、そうですかと頷いた。
そうこうしているうちに、俺たちの前には、広々とした緑の色彩が広がっていた。
森である。





