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4-75

 ヴィセントの街を出た俺たちの前に広がっている光景は、見渡す限りの草原だ。


 道中(どうちゅう)要所ごとに、道しるべとなる簡素な案内の立て看板はあったものの、逆に言えば、それだけしかなかった。


 かれこれ一時間くらいは歩いただろうか。 


 俺が見積もったのは約一時間半の徒歩の旅であるから、もうゴールも近そうだ。


 きわめて牧歌的な景色である。


 空を見上げれば白い雲が広がっているし、耳をすませれば鳥の声がする。


 長閑(のどか)な風景が、どこまでも続いていた。


 今のところ(さいわ)い、モンスターのモの字もない。


 うまくいけば、このまま何事も起きずにネムリアの森に着きそうだ。


「イフ。これ」


 と、俺は、紙袋の中を(あさ)りながら言った。


 俺は、朝露天商の八百屋の親父さんのところで仕入れてきたリンゴに似た果物すなわちゴンリを一個、イフに手渡した。


「ありがとうございます」


 イフは、礼を言って、ゴンリを受け取った。


「私、ゴンリ、大好きなんです」


「そりゃあよかった」


 二人で、静かにしゃくしゃくと歩きながら、ゴンリを頬張った。


 酸味と甘みのバランスが、絶妙である。


 このままかぶりつくのも旨いが、アップルパイのように焼き菓子にするのもよく合いそうな気がする。


 俺は、ゴンリを食べながら、青空を見上げた。

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