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「これでも、俺の勘は結構当たるんだ」
と、武器屋の親父は、自慢げに言った。
「……そうですか」
と、俺は、返した。
俺の脳裏に、魔王ディストピア討伐のことがよぎった。
俺がこの異世界に存在するための条件である。
存在契約が切れた後には、この世界における俺という存在が終わりになり、俺は消滅する。
それを回避するためにあるのが、現在の有期契約から正規契約への昇進だ。
昇進条件はただ一つで、魔王ディストピアを倒すことである。
魔王のことなどまだわからないが、このヴィセントの街ですべてにかたがつく可能性は皆無に等しいだろう。
トライデントの街、王都ヨルムレイにも赴くつもりだし、いずれこのヴィセントの街を発つことになるだろう。
剣と魔法のRPGの世界で、主人公が最初に訪れる冒頭の街ですべてが完結する作品は稀有であるように思われる。
最初の街のみを拠点としたままで、魔王直属の四天王を倒して、さらに魔王を倒すというのでは、ストーリーも広大になりにくいだろう。
最初の街の近くの洞窟に四天王がいて、じつは街の宿屋に魔王は滞在して、すべてやっつけて世界は救われましたという、そんなストーリーはどうだろうか。
意外性はあるにしても、エンターテイメント性は少ないように思われる。
少なくとも俺は、そのようなゲームは楽しめないだろう。
もちろん否定するものではない。
『四天王はグータラで、最初の街の近くの洞窟でたむろっていました』
『じつは魔王は可愛い美少女で、最初の街の本屋の娘に化けていました』
そんな半日常系RPGも、現にリリースされているのだ。





