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「ええと、まあ、そんなところです」
と、俺は、歯切れ悪く、首肯した。
「このヴィセントも、それなりに観光スポットは、あるからなあ」
八百屋の親父さんは、腕組をしながら、そう言った。
(なるほど)
この街の名前は、どうやらヴィセントというようだ。
「どこから、来たの?」
当然の質問だったが、この当たり前の問いかけに、俺は、言葉が詰まった。
ここは、俺にとっては異世界だが、目の前の八百屋の親父さんにとっては、俺のいた世界が異世界なわけで、教科書通りに答えるならば、異世界から来ました、となるのだろう。
(……って、言えるわけもないか)
と、自身にノリツッコミを入れながら、俺は、
「ええと……ちょっと歩いてきました」
と、言った。
我ながら、何とも雑な答えである。
八百屋の親父さんは、驚いたように、目を丸くして、
「歩いてきたって……トライデントから、馬車を飛ばしても、丸一日は、かかるぞ。もしかして、お前さん、冒険者なの?そんなふうには、見えないが」
八百屋の親父さんの話を、聞きながら、俺は、頭の中を整理した。
トライデントという処が、このヴィセントから、比較的近い場所なのかもしれない。
(それと、冒険者……か)
ますます、剣と魔法のRPGの世界観が、ぴったりだ。