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「待て待て! 待ちなさい!」
俺はツッコミながら、困惑していた。
謎の敬語を使ってしまう有様である。
「アカリは、一体ぜんたい、どんな小説読んでるのっ? 普通、そんなシーン出てこないからね!」
と、俺は、聞いた。
「『情熱と微熱の狭間で』だもん! 面白いもん!」
と、アカリは、もんもん言いながら、答えた。
「なにそのタイトルだけで、色々とどろどろとした展開とか予想できそうなのは!」
と、俺が、言った。
「ベストセラーです。本屋さんに山積みです。なぜかいつも山積みです」
アカリは、なぜか唐突に解説者のような厳かな口調で説明した。
「売れているんだか売れていないんだかわからない作品だな!」
「本屋の店員さんの手書きPOPの『クソゲー並みの面白さ』『大量入荷。買ってくれないとクビとびます』が、ひかります」
「しかも宣伝文句が投げやりだしいい加減だな!」
なぜかアカリは敬語になっていた。
しかし、それに言及する暇がないほどに、俺はツッコミで忙しかった。
「どろどろの三角関係プラス略奪愛で彼氏をゲットしたヒロインは、晴れて結ばれますが、半年で破局を迎えます」
「ジェットコースター並みの急展開だな! それと、俺も読むかもしれないから、ネタバレは止めてくれるっ?」
「ちなみに、ラストの『少し風邪ひいたみたい。別れよう』は、名言です。グッときます」
「別れる理由が謎だし希薄すぎ! それに、全然グッとこないから!」





