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すっかり夜もふけていて、今日も月が綺麗である。
雲もあまり出ていないから、星もよく見えていた。
「ソラ」
イフが、沈んだ顔でぺこりと頭を下げた。
「私のせいで、ソラに不快な思いをさせてしまいました。ごめんなさい」
と、イフは、続けて言った。
さきほどのノーハン商会のセドリグの件を言っているのだろう。
俺とイフは、夕食を取り終えて、冒険者ギルドの外の大通りにいた。
昼間の人の活気にあふれた往来に比べると、人の流れは少なめだ。
それでも、酒場も辺りに点在しているためか、街灯は煌々(こうこう)として、夜の街の様相である。
「気にしなくていい」
と、俺は、返した。
聞きたいことはいくつかあったが、今はそのタイミングではないだろう。
それに、聞きたいというのは、俺の都合だ。
俺の都合を、沈んだ表情のイフにおしつけるのは、身勝手な話である。
明日以降で、機会があれば、確認すればいい。
俺は、つとめて何気ない調子で、
「明日も、行くんだろ?」
と、聞いた。
「……え?」





