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「あんたに言われなくても、そうするさ」
俺は、短く返した。
酒場兼食堂の賑やかさは、さきほどからいささかも変わっていない。
しかし、その中にあって、俺とセドリグそしてイフのまわりには、不穏な空気が漂っていた。
セドリグは、いい返事だと笑って、
「リリーカルナ商会のご令嬢だ。何かあったら、君の命では全然足りないからね」
と、言った。
「……」
俺は、黙って聞いていた。
セドリグは、いや待てよと思い直したように言ってから、
「失敬。君が、イフに守られるほうかな? まあ、せいぜいがんばってくれ」
と、続けた。
(こいつ……)
「じゃあ、そろそろ行くよ。イフ、ココノエ君、失礼。今晩のよい眠りと明日の幸福がありますように」
そう言ったセドリグは、悠然とした物腰で、俺たちの席から去っていった。
俺たちは、しばらくの間無言だった。
向かいの席に座っているイフはうつむいていたから、白銀の前髪に隠れたその表情はよく見えなかった。
それでも、さきほどまでの元気が消えてしまっているのはわかった。
「……スープが冷めてしまいましたね。早く食べましょう」
そう言ったイフは、スプーンを手に取った。





