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「イフは、頑張り屋ですよ。それを否定する権利が、あるんですか?」
と、俺は、言った。
男性の目が、光った。
「ふうん。単なる案山子でもなかったのか」
男性は、面倒そうに言ってから、
「人にものを尋ねる時は、まず自らを名のるべきだろう?」
俺と男性は、数秒間無言で視線を交わした。
俺は、その沈黙を破るように、
「……ココノエ、ソラだ」
男は、にやっとして、
「そうか。君がねえ……なるほど」
思わせぶりにもってまわったような言いかただ。
だいたい、今までの話の流れからすれば、この男性は俺のことをわかっていたはずだ。
そのうえで、こんなもってまわったやり取りをしているのだ。
「何が、なるほどなんだ?」
しゃくに障ったが、俺は先を促した。
「あれ? 敬語を使うのはやめたのかな」
男性は、自身の赤のポケットチーフの位置を正しながら、何気ない調子で聞いた。
「あんたと俺は、考えてみたら、そんなに年も変わらなそうだしな。それに、敬語というのは、相手を敬っている時に、使うものだろう?」
と、俺は、言った。





