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そして瞬間、俺を中心に激しい風の渦が巻き起こった。
「……高位魔法……"暴風塵斬"!」
俺は、当たり前のようにその魔法の名前を紡いでいた。
台詞にエコーがかかっているかのように、それらしく唱えられた魔法だ。
魔法名もまた、当たり前のように、王道かつ鉄板の右手がうずく系のネーミングセンスである。
「暴れ狂う……暴風……」
と、イフが、愕然とした様子で言った。
俺は、不可視の暴風の巨大な剣を創り出し、そして一閃していた。
それだけである。
それだけで、あっという間に、スライムの群れのすべては薙ぎ払われていた。
俺の魔法が発動してから、ほんの数十秒の出来事だった。
後は、チニチニの花を摘んでいた時のさきほどまでと同じ草原の風景があるのみである。
スライムの群れとの戦闘は、終わったのだ。
戦闘などなかったかのように、草が風にさわさわと揺れていたし、雲はゆっくりと流れていて、遠くで鳥が鳴いていた。
草々が俺の起こした風によってなぎ倒されているのだけが、今の戦闘の爪痕のように残っていた。
自然の環境音の静寂の中、イフは草原に立ちすくんでいた。
「これが……高位魔法……」
イフの髪が、風に揺れていた。
近くにあった、むき出しの大きな岩は、バターのようにすっぱりと切り裂かれて断面を見せていた。
俺の放った"暴風塵斬の余波だろう。





