3-72
イフの疑似魔法"小さな赤"の直撃を受けたスライム二匹は、空中で爆散して霧散した。
「ソラ……っ!」
心配そうに俺の名を呼んだイフに向かって、俺は、声を張りあげた。
「もう……大丈夫だ!」
イフの的確なフォローがなければ、あのままでは俺はスライムたちの下敷きになっていたところだろう。
格闘ゲームのコマンドに近い性質をもつ、コマンドをなぞって力を振るうという能力である"入力実装"を、俺は持っている。
その能力の起動にはコツがいるようで、俺はまだ不慣れで、遅れをとってしまった形だ。
感覚的には、アーケードゲームの立ち上げに近い。
ACはCSのものとは違って、電源を入れてもゲームがすぐに立ち上がるわけではない。
まずは機器側で自動的にメモリーチェックに入るのである。
そして、このメモリーチェックには、数分がかかる。
モニターの調整時に用いられる碁盤の目のような表示パターンである、クロスハッチが、必要な場合もある。
ゲームセンターに早朝からでかけた時に、まれに見かける光景だ。
(……きた)
"入力実装"を発動する下地が整ったことを、俺は確信した。
これは、理屈ではなく、まったくの感覚だ。
"入力実装"を発動するために、俺は精神を集中した。
(コツは……つかんできているんだ!)
と、俺は自信を奮い立たせるように内心叫んだ。
その瞬間、俺の視界は、緑のモノクロームに染まった。





