154/4634
3-70
イフの指摘通りである。
すでに取り囲まれてしまっている以上、まったくスライムたちと衝突もせずにやり過ごすことは難しいように思えた。
「……やっぱり、逃げるっていう選択肢はなさそうだな」
と、俺は、静かに言った。
「戦うしかないでしょう」
と、イフは、凛とした声で言った。
「だよな」
俺も、短く言葉を返して、腹をくくった。
モンスターの群れと対峙するほかは、なさそうだ。
冒険者ギルドの受付嬢のマーシャルの評価通りなら、俺の実力ならばスライム五十匹までは何とかなるはずである。
イフは、ガラス瓶を手にしていた。
魔法瓶と呼ばれるものである。
魔法使いでない者が、疑似的に魔法を使えるよう、錬金工学により生成した魔法を閉じ込めた瓶だ。
「ソラ。よろしくお願いします」
と、イフが、言った。
俺とイフは、横並びになった。
冷たい風が、頬をさすった。
「ああ」
任せておけまで言いたかったのだが、情けないかな、そこまで言葉は続かなかった。
緊張で、唇が震えていたからである。





