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「待った待った!」
と、俺は、声を上げた。
「何でしょう?」
と、エストが、聞いた。
可愛い容姿とは、裏腹に、エストの話の内容は、俺にとって、辛辣なものだった。
「何か、問題でしょうか?」
エストは、きょとんとした顔で、言った。
「いや。問題あるから。問題あるからね」
俺は、食い下がらずをえなかった。
(魔王ディストピア……理想郷の対義を冠する名前か……)
一般的には、RPGの世界、ファンタジー世界に登場する魔王と言えば、最後に控える、いわゆるラスボス的な存在である。
勇者などの主人公たちが、紆余曲折を経て、艱難辛苦を乗り越えて、成長し、最後に、対峙するのが、魔王ではないだろうか。
それに、俺は、つい先程まで、予備校の模試の判定結果を憂いていた、一介の学生で、勇者でも何でもない。
そんな俺が、魔王と係わるなんて話が、冒頭に、唐突に出てくるなんて、緩急がつきすぎた、キレッキレの内容だ。
「有期契約から正規契約への昇進の条件が、魔王を倒すことって、無茶ぶりすぎやしないかな」
「夢を見るのも、いい加減にしてもらえませんか?」
エストの物言いは、先程からと一切変わらず、乙女然としたおしとやかな調子のままだが、発せられた言葉は、厳しいものだった。
「異世界と言っても、そう甘くはないのです」
いきなり、話のスケールが、大きくなった、いや、大きくなりすぎである。
普通のラーメンを注文したのに、何かの手違いで、全てのトッピングがのったラーメンが、勢いよく目の前の供されるなんて、例えが悪いが、少なくとも、この例えの何十倍もの話の規模のインフレが、起きているのには、間違いない。