1-13
「有期契約の更新は、あるんだよね?」
俺は、一縷の望みをかけて、念を押すように、聞いた。
「ありません」
エストは、にべもなく、そう言った。
女神エストは、大きいくりくりとした澄んだ瞳と、腰までかかるライトブルーのロングヘアが、印象的な、可愛らしい美少女然とした容姿とは裏腹に、圧倒的塩対応である。
「更新はないって、そんな……それじゃあ……」
冗談だと、言ってほしい。
エストの説明を、額面通りに受け取るならば、俺は、存在契約が切れる百日後には、この世界から消滅するということだ。
不条理にも、程がある。
「期間の定めのない存在の契約は、ないのか?」
「正規契約は、ありますよ」
と、エストは、あっさりと、言った。
「この場合は、期間は設けられていませんが、存在契約そのものについては、先程の私の説明を当てはめていただいて、結構です」
(何だ。きちんと、救済ルートが、あるじゃないか)
と、俺は、心中、胸をなでおろした。
「魔王ディストピアを、倒すことが、 正規契約への昇進の条件です」
「……は?」
俺の声は、震えていた。
エストの回答は、俺が予想だにしないことで、また、とんでもない言葉が飛び出したような気がした。
「魔王ディストピアとは、この世界に巣食うモンスターや魔族の頂点に君臨せし者……その力は、天を裂き、地を穿つとされています。強大無比な存在です」